2015年8月5日水曜日

なにがそうさせている ビジネス編3

「ものを売らない」としたら何を売るのか。

もちろん、商売ですから、ものを売っているわけですが、販売促進についてディスカッションする中で、どうやったら売れるのかという発想から考えると、値段とか、商品のアピールとか、付加価値の追加とか、ものが主体でのアイデアが出てきます。
もちろん、そこは重要ですが、単に安くすれば売れるとか、宣伝すれば売れるとかでは、今までとそれ程変わるものではないはずです。

ところで、本を売るという事では、他の小売業と決定的に違う部分があります。
それは、本の値段は販売店では決められないということです。
本には値段が印字されています。これは日本全国どこで買ってもその値段です。
本来物販というのは、仕入れ値と販売額の差額によって利益を出します。
例えば、大量注文すればその分単価が安く仕入れられるから、販売価格も1割引で店頭に出せる、という事が出来ます。
しかし、本の場合は、仕入れ価格も販売価格も販売価格維持制度という決まりによって固定されています。勝手に安売りとかは出来ません。

確かに物販は商品買い取りが基本ですから、そのリスクに見合った融通性があるのでしょうが、本の場合は委託販売制度ですので、そのリスク軽減分利益率は低くなるという事です。
しかしそのおかげで、本は北海道であろうが沖縄であろうが、輸送経費を考える事無く価格は固定であり、消費者は平等な価格で本を手に入れることが出来るという訳です。

さて、となると、本の安売りという販売促進は書店では出来ない、というのが大前提になります。更に、物販では他店にないものを仕入れる事で、差別化を図るという手段があります。その店でしか扱ってないもの、というのはお店の個性ともなります。
しかし、書店の場合は他店にあるものは基本的に仕入れることはできます。品揃えを個性的にして差別化を図るという事は出来ますが、売れていない本を大量仕入れしたからといって、それが売れるわけではありません。現実的に利益を出すには、それよりも売れている本を仕入れて、売れるうちに売り切るしかないのです。
結局、どこの書店でも置いてある本は殆ど一緒とならざるを得ないのです。

ここまで考えた時、売っているものも同じ、値段も変わらない、としたら、なぜわざわざその店で買う必要があるのだろうか?
商品自体に全く差はない、としたらお客がそれを買う心理に商品は関係ない。
だったら、ものを売ってるのではない、としたら何を売ってるのだ?

この発想が浮かんでから、売るという見方が一変しました。

商品に注目しないとなると、買う店と買わない店の違いとは何だろう。
お客目線で見たとき、入りやすい店、そうじゃない店は、何が違うのか。
自分がものを買うときの意識には、何があったのだろうか。
もちろん、今までもそういう発想はあったと言えますが、自身の店を見るときにはどうしても売る側の視点の方が優位に立ってしまいがちです。
これはどの店主と話をしているときでも、売るという意識から発想しているなということが伺えます。なかなか自分が一消費者としてそれを買うという感覚にはなり難いようです。

だからこそ、今そこにある「ものは売らない」と決めつけた時に、やっと買う側の視点に立てたという気がしたのです。

小さな店の店主ともなると、店番も含めて店舗に張り付いていることが多くなります。
なかなか外に出かけてゆっくり買いものをするという暇もありません。しかも自分と同じ業種の店でものを買うというのは、なんとなく抵抗があったりします。
本屋なのに、他の本屋で買うというのは、気が引ける訳ですが、これ以降は、あえてそれを実行しました。本に限らず、何かものを買うときには、何が自分に買う気を起こさせたのか、その店の雰囲気や自分の気持ちの変化を観察するようになりました。

難しいのは、良いところを探すということです。感じがいい、とか雰囲気がいい、とかは具体的に何処、と言えない部分にあったりします。明確にならない所は真似しようにも出来ないとなってしまいます。
反面、悪いところというのは直ぐ目につきます。
荷物の箱が通路に置いたままになっていたり、商品の並びが見にくかったり、とりわけ、店員の雰囲気というのは敏感に感じてしまうものです。

誰もが、他人のあら探しというのは得意でしょう。悪いところは直ぐに目についてしまいます。人間の特性と言っても良いでしょう。
お客目線になって気になるところを探していくと、いくらでも出てきます。特に売る側の都合でやっていることなど、お客の立場からは何の得も感じられません。
始めに手を付けなければならないのは、どれだけマイナス印象の要素が自分の店にあるのかに気付くことでした。

お店の都合でやってることに、問題はないか。もしあったとしても、それをどう解消してお客の利便性を高める方向に持って行くか。ものを売る前にやるべき事は沢山あったのです。
売り方を変えることより、自分たちが変わるという事が必要なのです。

まずは、お客が感じるであろう嫌なことを減らしていく。それがあって初めて良さも引き立つということです。そして一番問題となるであろうことは、人間の対応でしょう。
お客に与える印象で最大のものは、その店にいる人間の対応に尽きると思います。
いくら見栄えのよい店舗でも、店員の対応によっては魅力が半減するという場合があることでしょう。そう考えると、お店の魅力とはそこに働く人間の資質によって、大きく左右されるということが言えると思います。

突き詰めていくと、お店で売っているものとは、人の魅力なのではないでしょうか。


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