2015年8月3日月曜日

なにがそうさせている ビジネス編1

30代に入ってから17年あまり、書店業を営んできました。それまでも、飲食店や引っ越し業のバイト、印刷業、TV局デザイン部勤務など色々な仕事をしてきましたが、書店を通じて培われた情報や知識が、今の自分には大きな収穫となっています。
書店という商売を通じて、世の中のカラクリを勉強してきたように思います。

もちろん、商売というビジネスですから、お金を稼ぐ手段として、ものを売らなければなりません。
書店の場合は本を売るということになります。
商売をする人が常に考えていることは「どうすれば売れるのか」に尽きます。
本当に四六時中、それを考えていたものです。

そもそも、ものが売れるとは、どういうことなのか?
お客がその商品を買うのは、なぜなのか?

そんな疑問が頭の中でいつもぐるぐると回っていました。どこかに答えはないものか。
都合良く、というかおかげさまで、書店という恰好の情報源が目の前にあったので、そういう関係の本を片っ端から目を通していきました。いわゆる、ビジネスにおける成功本の類いや、成功者の自伝、体験談、などがそうです。

1990年に入った頃でしょうか。出版業界も右肩上がりの頃で、景気のいい話の本などがぞくぞく出版されたように思います。
その頃は、メディアで話題になれば直ぐに売れていきました。とにかく話題になっている本を仕入れる事が、儲けるための必要不可欠な業務となります。その為には、あらゆる方向にアンテナを張り、いち早く情報を仕入れなければなりません。
家に帰ったら、TVを見ていても本の話題が出ていないか、電車の中吊り広告に新刊の話題はないか、新聞の書評は何が載ってるか、目に留まるもの全てに注意を払っていました。

TVの影響は絶大で、特にお昼ごろのワイドショーなどには悩まされました。今でもそうでしょうが、料理のレシピ本とか、ダイエットの本とか、中でも健康に関する本などは、放送された直後にお客さんがお店に買いに来ることもありました。
「お昼にTVでやってたんだけど、なんだか身体にいいってことが書いてあるんだって。その本ない?」
そう言われても、こっちはその時間店にいるんだからTVは見てないのに。
しかも、その番組中のひとつのコーナーでちょっと取り上げただけだったりするので、お客さんもよく分かってないから、本のタイトルも出版社も分からない訳です。

ちなみに、本を探す手がかりの一番は、まず発行されている出版社が分かること。次にタイトル、作者かな。

そうは言っても、お客さんで出版社をハッキリ覚えてきてくれるのは稀で、タイトルも作者もうろ覚えで、なんとなくこんな内容で、という場合がほとんどだったりしますね。

しかし、こちらもプロ。とくかく意地でも目当ての本を探し出すのです。
僅かな手がかりから、一冊の本にたどり着く。まるで探偵のような・・・言い過ぎ?

先のTVでやってた、という話から「何チャンネルの何時からの番組でした?」と聞き込みを開始。新聞やTVガイドの番組欄をチェックして、その番組を見つけたら、TV局に電話します。
その番組名を伝えて、番組担当の人に繋いでもらい、コーナー中の説明をして、さらに受け持ちのディレクターさんに変わってもらって、ようやく紹介した本にたどり着きます。
それから、出版社に電話をして確認すると、まだ発売前だったりすることもしばしば。

話がそれましたが、そんなふうに、TVやラジオ、新聞など、メディアの影響力というのはとても大きなもので、何かを売る為には、メディアにいかに載るかが勝負だった時代でした。

しかし一方で、話題になれば売れるというのなら、本の中身は関係ないのか?という疑問も浮かびます。
同じような内容の本は、いくらでもあるわけですが、内容の善し悪しではなく、メディアに載ったかどうかで、売れ行きは雲泥の差になってしまったりするのです。

書店に新刊が入荷した時点で、まだお客さんの目に触れない本を手にします。そこでこの本は売れるかどうかを見きわめるのが、朝一番の仕事になります。長年本を見ていると、本の装丁、タイトルを見た時点でなんとなく売れそうかどうかの勘が働いてきます。
そういう中で、これはなかなかいい本だ、と思ってもこのままでは多分売れないだろうな。というものも出てきます。

良い本だから売れる。この図式が成り立たないというのを実感してきました。
ただ、間違ってはならないのは、良い本でなければ、売れる事も無い。という前提があってのことです。
粗悪なものは、結果としてやはり売れないのです。

面白いことに、製造業者と販売業者では、売れるという捉え方に違いがあります。
中小企業者の集まりで10年ほど勉強会をしてきました。その中には物販販売、サービス業、飲食業、製造業という各種の店主が揃っていたので、それぞれの商売に対する捉え方の違いがよく表れていて、大変勉強になりました。
製造業、いわゆる職人気質の人は「良いものを作れば売れる」というのが基本的な意識にありました。
販売業の人は「売れるものが良いもの」という意識がありました。

この構図は、製造販売の大きな会社に見られる、製造部門と営業部門の意識の違いと同じです。
製造は「良いものを作っているんだから、売れない営業部が悪い」
営業は「お客が買わないのは、ニーズに合ってないからだから製造を見直せ」
なんだかTVドラマなどで、よく見かける気がします。

しかしこれ、どちらも間違っているわけではありません。
実は、売れる要素は他のところにあるのです。

お客がものを買う心理とはいったいどこにあるのか?
これを知ることが、商売をする上で重要なことだと思い至ったのです。

ここから人の心理に分け入っていく、長い道のりが始まりました。



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